●基調講演ご登壇者
慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 特任准教授
若新 雄純 氏
基調講演タイトル・「おしゃべりによるイノベーション~鯖江市JK課の事例から」
●話題提供の内容:
若新さんが対話に興味を持ったのは「人と組織に興味があったから」それはご自身の
人との関わりで問題を抱えることが多かったからだそうだ。大学で組織心理学を学び
現在に至る。 なぜ今の時代に対話が重要がされているのか?
それは明確な答えがない時代だから。 例えば北朝鮮、アメリカとの外交問題のような
マクロなものから「自分はこれからどうやって生きていくのか?」といった自分自身の
ミクロなものまで様々あるがどれも明確な答えがあるものではない。だからこそ対話を通じてこれからの未来を想像していくことが必要となってくる。
成長社会であった昔はみんな同じものが好きで消費することが一番の幸せだった。さらに経済成長と同様に給与もあがるため使っても次の年はそれ以上の給与をもらえた。
しかし成熟社会となった今、金銭的充足やインターネットの影響で人の好みが多種多様になった。 つまり「用意されたものを消費する」から「自分なりの人生」にシフトチェンジしている(消費→創造)
日本人はゴール信者で博多駅前の陥没があれほど話題になったのは、ゴールが明確であった且つそのゴールに短期間で到達したからだった。でもこれからの時代そんなニュースはきっともうそんなにない。 これからは「貧しいから豊かにする」ではなく「豊かだけどなんだか幸せじゃない」といったゴールが明確でないものに向かうことになる。
例えば今まではコップに水を注いでいきコップをいっぱいにすることがゴールでこれからは水が満タンなコップにさらに水を注いで床にこぼれる水を想像していくイメージ。
つまりマイナスを0にする(問題の解決)のではなく、0をプラスにする付加価値の創造の時代である。 成熟社会において課題は少なくなってきていて無理に課題をみつける必要がなくなる場面も増えて来る。
付加価値の創造はゴールを明確に定義しづらい。 鯖江市役所JK課の事例では、計画もゴールもなく実施に踏み切った結果、年間80回の会議と20のプロジェクトが生まれ総務大臣賞などを受賞するに至った。
なぜ対話が重要なのか?対話は「何かを創造する場」だからである。 新しい価値は天才アイディアマンが生み出すものではなく、売る人、買う人、作る人が共同して作られるものである。 JK(女子高生)のおしゃべりからイノベーションが生まれた。
試行錯誤はゴールや方向性が見えづらいから怖い。しかし、進めていくと発見が連鎖して何かが創造される。 研究の結果「おしゃべり」からJKは新しいアイディアを生んでいるという結果がでた。
ここで議論と対話を比較する。議論(ディスカッション)は答えを出して決定する。収束するもので、主張をぶつけ合うことで課題に対する解決策を出すことを目的とする。
対話(ダイアログ)は ものごとを探求し、拡散するもので、結論ではなく、互いの理解や信頼を深めるための話し合うことを目的とする。
JKとの対話の中で気をつけるポイントは、大人が子供に対して「教育」をするスタンスをやめること。 例えば市役所のJK課担当の方が「挨拶できない奴は人間じゃない」 と挨拶をルール化しようとしたが、これは子供に自分の価値観を押し付けている行為なのでJKには挨拶を強要しないよう伝えた。
しかしある日高校生から下の名前で呼ばれさらにタメ語で話しかけられたそうで、そのJKに後日わけを聞いてみたところ「友達になったら下の名前で呼ぶと決めているから」と言っていた。市の担当者は「仲間なんだ!」と喜んでいた。
ここから学ぶべきことはお互いを尊重する信頼関係が必要ということである。JKはおしゃべりをすることで様々なアイデアの種を創造し、大人はそのおしゃべりの中から可能性を見出し、実現に向けて計画立てたり、予算を付けたり、関係先との折衝をしたり、それぞれ得意なことを生かす必要がある。あくまで立場は対等である。
◎JK課プロジェクトの事例:
①消防署からの火の用心を呼び掛けるPRの相談に
「(JKが)コスチュームとか着ても意味なくない?」「消防車くらい出動して欲しい」とJK。消防車を出動させ、はしご車のレーンをあげ、街を一望するイベントが実現。
何か課題を解決した訳ではない。しかし「なんだかおもしろいぞ」というものが生まれた。
②自衛隊の活動のPRの相談に対しては、若者と関わりたいけど時間がないという自衛隊員に対し、迷彩服が若者を遠ざける原因ではないかとJK。 職務中は制服を脱げないと聞いて「駐屯地に私たちが泊まりに行くから私服で会おう」と提案。就業時間後に自衛隊員の私服ファッションショーが実現した。
対話(ダイアログ)とは関係を深めながら発見し、学び、変化するプロセスである。
●感想:
「マイナスを0にする(問題の解決)のではなく、0をプラスにする付加価値の創造の時代である。」
「成熟社会において課題は少なくってきていて、無理に課題をみつける必要がなくなる場面も増えて来る。」
「「貧しいから豊かにする」ではなく「豊かだけどなんだか幸せじゃない」といった明確なゴールがないものに向かうことが必要である。」
上記の言葉が講演の中で一番興味深かったです。
技術発展もありどんどん便利になっていく社会の中で、生活に困るレベル感のものを感じることはなくなってきているなと感じていて、これから人工知能の発達により人間が人間らしく生きるにはどうすべきなんだろう...と感じる中で若新さんの話を聞いていました。
恐らく自分の問いには明確な答えなどなく、それを見つけていくために人との「対話」を重要視していく必要があるのだろうと解釈しています。また、明確な答えを出す必要のない「対話」を行えるかつ楽しめるのも一つの人間らしさなのかなとも感じました。付加価値の創造は、ゴールを明確に定義しづらい。
だからこそ我々人間は試行錯誤を繰り返し、発見を連鎖させることで、何かを創造していくべきであると思います。
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